アメリカのメキシコ湾で起きた石油採掘所の爆発水没から始まった原油の流出事故は、結局、「史上最悪の石油流出事故へ」となってきているようで、海外のサイトでは非常に多くの報道がなされています。
私自身、石油流出が自然環境や人間生活に具体的にどう影響がかかってくるのかがよくわからないですので、当初はこのことは記事にするつもりではなかったのですが、どうして記事にしたかというと、「日本語での報道と他の言語(特に英語)での報道量に開きがありすぎる」ことが気になったからです。今に始まったことではないのですが、最近は、日本語の報道に強いバイアスがかかることが多く、「海外報道とは扱いが違う」という報道が散見されます。経済、政治、環境と多岐に渡りますが、いくらなんでも、「誰それが離婚してワイワイ」というニュースよりは報道する意味がありそうなものも多いようには思います。
さて、この石油流出の現状と、このまま止まらなかった場合はどうなるのかということですが、経緯を簡単に書きますと、
・4月20日、米国ルイジアナ州沖のメキシコ湾で石油採掘場が爆発水没
・2日後に原油の流出が始まる。
・4月29日、ルイジアナ州が非常事態宣言。
・5月1日、ミシシッピ、アラバマ、フロリダの各州が非常事態宣言。
・5月2日現在の石油の流出量は、公式には、沿岸警備隊が出している、「一日あたり5千バレルの流出」ということになっています。
[補足]バレルについて:「1バレル」という石油に使われる単位のことについでですが、「1石油バレル = 158.987295 リットル」とのことで、すなわち、1バレルとは約160リットルくらいのようです。これはこちらによると、「バレル」とは「樽」の意味で、昔、原油は酒樽に入れて運んでいたそうで、その酒樽の容量が160リットル(42ガロン)だったということのようです。
▲ この樽ひとつが「1バレル」ということのようです。今後の記事中にある記事で「5000バレル」とあれば、これが5000。一日5万バレルとあれば、これの5万本分が海に放出されると思っていただければいいかと思います。なかなかの量です。
現在の原油の流出量と今後の見込み
上では、現在の原油の流出量が一日5000バレルだと書きましたが、しかし、アメリカの一部報道( C'mon, how big is the Gulf of Mexico oil spill, really? など)では、これは間違っているとしていて、「1日に2万5千バレルを噴出している」と予測している人たちもいて、またアメリカ海洋大気局 ( NOAA ) は、破損状況次第では、今後、一日に5万バレル流出するとしているようです。
さらに、上の記事では、「4月28日付けのアメリカ海洋大気局の緊急応答書類」として、
追加で2箇所の流出が見つかった。パイプの破損がこれ以上続くと、その流出は歯止めがきかず、今とは「一桁違う」量の流出が予想される。その規模は10の倍数で広がるだろう。
という報告内容になっているそうです。
すなわち、専門チームから見ても、「大変に危機的な状況である」ということではあるようです。
ここに至って、アメリカ政府は、オバマ大統領が、「原油流出の全責任は英石油大手BPにある」と発表し、いち早く逃げの姿勢を鮮明にしています。
ちなみに、今回の流出事故のあった場所と、今後広がっていく可能性のあるのはこのあたりです。北米大陸の南東方面の沖でしょうか。地図では、右下の海域です。
今後どうなっていくかというのは、これまででもっともひどかった原油流出被害を参考に、今回はそれよりもひどくなる可能性があるということで考えてみればいいのだとは思いますが、私には何とも想像できない部分はあります。
これまでで最悪といわれる原油流出事故は、1989年のエクソンバルディーズ号事件というものだそうです。
上記記事からの流用で、
この事故でおよそ積載量の20%にあたる1100万ガロン(24万バレル)の原油がプリンスウィリアム湾に流出した。すぐに分厚い原油の層がプリンス・ウィリアム湾一帯を覆い、船が座礁したのち3日間嵐が吹き荒れたため、大量の原油が各地の岩浜に打ち寄せた。
もっとも信頼できる推計によれば、事故後まもなく死亡した野生動物の個体数は次のとおりである。各種の海鳥:25万-50万羽、ラッコ:2800-5000頭、カワウソ:約12頭、ゴマフアザラシ:300頭、ハゲワシ:250羽、シャチ:22頭、その他サケやニシンの卵の被害は甚大であった。
とのこと。
この時はタンカーですが、今回は石油採掘場そのものから流出しているので、比較できるのかどうかわからないですが(タンカーとは違い流出の限度の目処が立たないため)、少なくとも、海洋大気局 ( NOAA )が発表している、「このままだと1日5万バレル」というようなことが現実となれば、1989年のエクソンバルディーズ号事件の流出量は1週間で越えてしまいます。今現在、事故から2週間絶っているので、もしかすると、すでに流出量は越えている可能性もないではないです。
上のエクソンバルディーズ号事件の記事にはこういう部分もありました。
当初は除去作業や微生物による分解で、数年後に原油はほぼ消えると期待されていた。
しかし、沿岸の一部で原油が残存しているのが見つかり、米テンプル大は昨年までの3年間、原油が漂着した湾内のエレノア島の沿岸12地点を調査した。その結果、原油を分解する微生物が生存するのに必要な酸素や養分の量が通常より10分の1という層が地表近くに存在し、原油の「貯蔵庫」が形成されていることが分かった。
アラスカ南部では海岸線のほぼ半分がこうした特徴を持つとされ、残存している原油は約7万6000リットルに上る可能性があるという。
原油はなかなか消えるものではないようです。
起きる時は何もかも重なって起きるものですね・・・。
アイスランドの噴火も別に収まったわけではなく、今は煙が出ていないだけで、アイスランド気象庁のニュースだと、氷河は相変わらず溶け続けていて、また、カトラ山の噴火への連動の懸念が消えたというわけでもないようです。
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[追記] 2010.05.05
Earthfilesの5月3日付けの記事に、流出した原油がメキシコ湾を流れる暖流から大西洋に抜けていく予想と、その図が掲載されていました。訳して掲載します。もし、原油の流出が止まらない場合、大西洋におびただしい原油が流入し続ける可能性があります。
Oil Leak Could Reach Loop Current Soon and Threaten Florida Keys and East Coast
Earthfiles 2010.05.05
流出した原油は、まもなく、ループカレント(メキシコ湾を流れる暖流)に達し、フロリダ・キー方面と東海岸を脅かすかもしれない。
「原油は遅かれ早かれ、私たちのこの海岸にやってくるだろう。そして、到着するのはフロリダ半島だけでは済まないかもしれない。この海岸沿いのもっと大規模な範囲になるのかもしれない。もちろん、そんなことにならないように祈っているが・・・。とんでもない事態になってしまった。まったく信じられないことだ」
-- フロリダ州知事チャーリー・クリスト
メキシコ湾のループ・カレントは、ルイジアナに向かって、フロリダの南端のあたりと東海岸への北をベルトコンベアのように移動している海流だ。
マイアミ大学海洋研究所の海洋学者ニック・シェイ博士は、BPの重油流出がループカレントに入ると、おそらく、いったんフロリダ・キーで止まり、それから、フロリダ半島の先端の東を抜けて、海流に乗って大西洋にへ流入すると思われる、と述べた。
フロリダのクリスト州知事は非常時命令をさらに沿岸の13地域にまで広げた。
(※)記事に出てくるループ・カレント ( Loop Current ) は、英語での説明はこちらで、要するに「ユカタン海峡からメキシコ湾に流れ込む時計まわりの暖かい流れ」のことのようです。また、パンハンドル ( Panhandle ) という単語が出て来ますが、これは半島などの「フライパンの取っ手の部分のように突き出た場所」を表すようで、この場合は、多分、「フロリダ半島だけの影響ではないかもしれない」と言っているのだと思います。