
・Extinction Protocol
アメリカ初のエボラ患者となったリベリア籍の男性、トーマス・エリック・ダンカンさんが、10月 8日に死亡しました。
下はブルームバーグの記事です。
米国初のエボラ熱患者トーマス・エリック・ダンカンさん死亡
ブルームバーグ 2014.10.08
・トーマス・エリック・ダンカンさん
米国内で初のエボラ出血熱患者と診断されたトーマス・エリック・ダンカンさんが8日、死亡した。ダンカンさんはテキサス州ダラスの病院で隔離され、治療を受けていた。
リベリア人のダンカンさんは祖国で感染した後に、恋人のルイーズ・トローさんと結婚するために渡米。9月30日にエボラ出血熱と診断された。トローさんも現在は隔離されているが、今のところ症状はみられない。

▲ 米国で初のエボラ出血熱の発症者となったトーマス・エリック・ダンカンさんが治療を受けていたダラスのテキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院。
さて、その問題とは別に、冒頭にある「別の問題」が出てきています。
医療費の高額さは世界でも最高クラスのアメリカではあるわけですが、10月 7日の米国シカゴ・トリビューン紙は、ダンカンさんに対してのエボラの治療費が 5000万ドル(約 5300万円)に達している可能性を報じています。
ダンカンさんがダラスの病院に入院したのが 9月 28日(エボラと診断が確定したのは 9月 30日)ですから、報道のあった 10月 7日までの、約 10日間で、日本円で 5000万円以上の治療費がつぎ込まれたのでした。
そして、結局、ダンカンさんは亡くなっていますが、仮に亡くならなかったとしても、健康保険もなく、支払い能力もありませんでした。
このような費用は、アメリカにおいて仮にエボラに他の人が感染した場合は、ダンカンさんだけではなく、多くの人が払うことができないわけで、今回だけの問題ではなく、今後のことを考えると、非常に大きな問題にもなりうる話かもしれません。
シカゴ・トリビューン紙の記事の概要をご紹介します。
なお、この記事の時点では、患者のトーマス・エリック・ダンカンさんは死亡していません。
Hospital bill for Ebola grows at $1,000 an hour in Dallas case
Chicago Tribune 2014.10.07
ダラスの場合、エボラの治療の費用は1時間に 1,000ドル(11万円)かかっている
ダラスの病院でエボラの治療を受けているトーマス・エリック・ダンカンさんに対してのこれまでの治療費が、総額で最大 50万ドル(約 5300万円)に達している可能性がある。
ダンカンさんは、深刻な容体になった 9月 28日以来、ダラスのテキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院( Texas Health Presbyterian Hospital Dallas )で、隔離治療を受けている。
人工呼吸器をつけ、試験的な薬を投与されている他、腎臓透析を受けている。
また、治療には流体交換、輸血、そして、血圧を維持する薬が使われる。さらに、エボラに汚染された廃棄物の処理の費用や、看護師を保護するための機器のセキュリティ費用もかかる。
こうしたことから、ワシントンにある保健コンサルティング会社の最高経営責任者のダン・メンデルセン( Dan Mendelson )氏は、ダンカンさんの治療には、おそらく、1日に 18,000ドル(約 190万円)から 24,000ドル(約 250万円)以上の費用がかかっているだろうと述べた。
ダンカンさんは、これまで9日間、隔離入院しているが、観光ビザでリベリアからアメリカにやって来ており、いかなる健康保健も所持していない。つまり、病院側は、ダンカンさんが明らかに治療の費用を持っていないことを認識しているとした場合、完全な「チャリティ治療」となっているという指摘がある。
ワシントンのリベリア大使館のスポークスマンは、ダンカンさんの治療費の支払いに関しての議論を避けた。
「請求書の問題を決定するのは時期尚早だ。ダンカン氏は危険な状態にあり、何よりも、まず氏の健康を回復することが問題だ」と、リベリア大使館のスポークスマンは言った。
ダンカンさんは、アメリカ国内での初のエボラ患者だが、それ以前に、アフリカで発症した後にアメリカで治療を受けたエボラ患者が3人いる。また、オマハとアトランタでも1人ずつ治療を受けた。
どの病院も治療費に関してのコメントは出していない。
最初に米国でエボラの治療を受けたのは、リベリアで現地での治療にあたっていたケント・ブラントリー( Kent Brantly )医師だったが、彼の場合は、彼が所属しているキリスト教系の慈善団体「サマリタンズパース」( Samaritan's Purse )が提供する健康保険で治療費がカバーされた。
他の米国で治療を受けたエボラ患者も、所属する団体の健康保険と労災保険で費用が適用され、一部費用が免責されている。
隔離病棟での集中治療室の費用は、標準の治療の倍のコストが派生する。
したがって、もし仮に、米国で、隔離病棟を使用して治療しなければならないような感染症の大規模な流行が発生した場合の懸念は残る。しかし、病院が経験を積むにつれて、コストは下がるだろうと述べる専門家もいる。
これまで一部のエボラ患者に試験的な薬物療法を試みたが、現在、エボラに対して承認された治療法は存在しない。体液を維持し、血液を交換する対症療法が行われる。
(訳者注) ここまでですが、もし仮に、アメリカ国内でエボラが多少でも感染拡大した場合、この「費用」というのは大きな問題となりそうです。
普通に考えれば、「保健に入っていない人びとはエボラになっても治療を受けられない」ということにもなるでしょうし、かといって、病院がすべての患者を引き受けると、病院側が破産してしまいかねなく、しかし、エボラ患者をそのまま放置しておくと、さらに感染拡大の危険性が広まる可能性が高まるわけですし、悩ましい問題です。
そのような場合は、リベリアがおこなっているような、軍による強制隔離とか、あるいは、シェラレオネがおこなったような「事実上の戒厳令」の下に何日間か置かれるということになる可能性はないとはいえません。